『源氏物語』は西暦1001年の疫病流行期に新婚間もない夫を喪った未亡人紫式部によって、その虚脱感の中に書かれたと言われています。疫病の最中に書き起こされ、病に脅かされながら書き継がれた作品である『源氏物語』は常に死を前提に置く物語となりました。喪失感の文学です。
死を媒介にした時、愛はどのように維持できるのか。身代わりを求めてしまう心理、満たされない思いなど、死と病と老いという暗い要素とせめぎ合うように生きることの意味、愛の究極が輝きだす瞬間を『源氏物語』の中から12回にわたって読んでいきます。そのことで、源氏物語という大長編のもっとも本質的な部分を理解することができるでしょう。
お試し動画
セット講座
第7回 光源氏の老い
動画 102分第8回 柏木密通と薫誕生
動画 93分第9回 紫上の病と死をめぐって
動画 82分第10回 八宮の遺言
動画 101分第11回 宇治大君の病と父の遺言
動画 88分第12回 浮舟の「死」と再生
動画 93分
全セット ¥9,900円
講師
(国文学者・フェリス女学院大学名誉教授) 早稲田大学大学院卒業。上智大学教授、フェリス女学院大学教授を経て現職。『源氏物語』と『枕草子』を主な専門とし、幅広い観点から古典文学を捉える。NHK教育テレビの高校講座「古典への招待」で長年講師を務めた。著書『源氏物語 感覚の論理』『枕草子 表現の論理』(有精堂)、『源氏物語絵巻の謎を読み解く』(三谷邦明との共著・角川選書)、『天皇になれなかった皇子のものがたり』(新潮社・とんぼの本)、NHK 『100分de名著』 ブックス 紫式部 源氏物語 (NHK出版)ほか多数。
注意事項
※本講座は、ストリーム配信によるオンデマンド講座です。受講生の皆様は、購入時にご案内する動画URLにアクセスし、バスワードを入力してご視聴ください。
※パスワード等は、購入者に配布するPDF形式のファイルに記載します。
※資料もダウンロードできますので、配布するPDFファイルにてご確認ください。
※視聴期間は、視聴期間は2024年10月1日~2025年3月31日まで。
内容紹介
第7回 光源氏の老い
『源氏物語』は三十三巻目の藤裏葉巻で一つの大団円を迎えます。光源氏は高麗の相人の予言通り、準太上天皇に推戴され、息子夕霧は雲居雁との結婚を許され、娘明石姫君は皇太子に入内し、思い残すことのない栄華が確かめられます。
しかし、物語はさらに書き継がれ、光源氏の後半生、晩年の世界を描いていきます。登場人物の老い、病、死などが次から次へと襲ってきて、生きることの苦痛に満ちた様相を明らかにし、負の側面に舵を切っていくのです。
第8回 柏木密通と薫誕生
前回は女楽の華やかな場面から一転して紫上が発病し、二条院に移り、光源氏も付き添い六条院ががら空きになった状況を読んできました。光源氏は建前としては女三宮を大事にしていましたが、いざ紫上が発病すると、すべてを忘れて紫上の看病をします。
取り残された女三宮のもとでは琴などもひきこめられ、朱雀院の五十賀も延期に。そこにあの六条院の桜の下の蹴鞠の場面で女三宮を垣間見して以来、忘れることのなかった柏木が近づいてきます。
第9回 紫上の病と死をめぐって
光源氏は薫を抱き、その愛らしい無心の瞳に見入ることで、自分と同じような罪を犯した柏木・女三宮も許し、薫も許し、――愚かな行動に走ったかつての自分も、――また許していくのです。――もう一人の主人公薫の物語がここから始まります。
その薫をめぐる物語が本格的に始まる前に、源氏物語は紫上の死という大きな曲がり角を迎えます。もっとも大切な人物として、一貫して愛されてきた紫上の死と光源氏の退場の物語を今回は読んでいきます。
第10回 八宮の遺言
光源氏が亡くなり、物語から退場した後、世の中には大きな虚脱感が残り、光源氏を継ぐ人は一人もいなかったと語られます。『源氏物語』はもう、光源氏のような圧倒的な存在、超越的な主人公を求めてはいないのです。わたしたちと同じような、欠点も多く、ちょっとだけ素敵な若者たちをめぐって続編は始まっていきます。
その中で新たなキーパーソンになるのが宇治に住む八宮です。八宮とは何者なのか、なぜ宇治に住むようになったか見ていきましょう。
第11回 宇治大君の病と父の遺言
前回は八宮が相手によって違った感触の遺言を残し、その結果、八宮の真意がどこにあるかが不明であるというお話をいたしました。
今回はその八宮の遺言を額面通り守ろうとする大君と、自分は当然許されていると確信する薫のすれ違い、生活のためには現実を見なければならないという女房たちの経済優先の価値観の違いから、大君が次第に前途を悲観して追い詰められていく過程を読んでいきます。
第12回 浮舟の「死」と再生
大君の看病、その死を看取った薫は、その長い時間を共にした中君に大君思慕の思いを移行していきます。匂宮は、ようやく中君を二条院に迎える許可を得ます。その新居二条院は、薫が大君を迎えようと新築した三条宮の北隣でした。薫は我慢できず、中君に思いを打ち明けます。匂宮の子供を妊娠していた中君は困惑し、薫に「もう一人の妹」を紹介することで危機を回避しようとします。
その「もう一人の妹」こそ、『源氏物語』最後のヒロイン浮舟です。